改修時におけるクロスカット試験(碁盤目試験)の勧め

この下塗塗料はサイディングに塗って本当に大丈夫なのか?

住宅のサイディング外壁の塗り替え工事の際に行った密着試験についてご報告いたします。
主にサーフ系とよばれる水性下塗塗料をテストしました。


塗装工事を行うにあたって、上塗塗料の選択以上に重要なのが下塗塗料です。
塗り替え工事にあたっては、1回目の工事であれば,既存のサイディングの種類と状態,2回目以降の塗り替えであれば既存の塗装の種類と状態を踏まえて塗料の選択を行います。

既存への下塗塗料の適性を探るため、現場で簡単に行えるテストのやり方としては「クロスカット試験」「碁盤目試験」といわれている試験方法が知られています。

具体的なやり方は下記の通りです。

1.試験する塗料を塗布して十分に乾燥させる
結果のばらつきを考慮して5種類の塗料を2ヶ所ずつ塗った状態です。

試験対象の塗料を塗布して十分に乾燥させる

2.定規とカッターナイフを用いて縦横6本ずつ、3~4mm間隔で素地に達する切り込みを入れる

素地に達する切り込みを入れる-縦6本

素地に達する切り込みを入れる-横6本

3.テープを貼ってしっかり押さえる
JISで定められているのはセロテープなので、ここでもセロテープを使用しています。
テープを貼った後は、各検体とも、同じ指で同じ力で同じ回数こするように心掛けています。

セロテープを貼りよく押さえる

4.勢いよく一気にテープを剥がす

勢いよく一気にテープを剥がす

5.どの程度剥がれるかで密着の度合いを確認する

剥がれた状態により試験塗料の密着を評価する


過去に現場で行ったクロスカット試験のうち,とてもわかりやすい結果が出た事例を2つご紹介します。


事例① 水性下塗塗料の実力テスト

下地:窯業系サイディング、10年以上前に水性シリコン塗料で塗り替えられている
使用塗料:4メーカー5種類のサイディング用水性下塗塗料

テスト結果の一覧が下の写真です。

水性下塗塗料の実力

【A】だけは2液形で、価格は下記4種の約3倍。
【B】【C】【D】【E】は通称サーフ系と呼ばれる同等品で価格差も数百円です。

他の4種に比べ、格段に高価な【A】だけが全く剥がれない結果となりました。
【B】~【E】は剥がれていますが、剥がれ方に明確な違いが出ました。

信頼性を重視するならば【A】の選択となりますが、予算の都合で価格が1/3のサーフ系から選ばなければならないとしたら【B】になりますね。

決して選んではいけないのは【E】で,やる気?を感じさせない剥がれ方をしています。

こんなに対照的な結果が出ることは珍しいのですが、何よりも驚いたのは,
塗装後10年以上経過している水性塗料に密着しない下塗塗料が
平気で売られている
という事実でした。


事例② シーラー塗布と目荒らしの効果

サーフ系の下塗塗料は膜厚を付けることで下地を滑らかにする機能がある半面、下地への浸透性や接着力という点ではシーラーが勝る、というイメージがあります。

そこで、サーフ系の直接塗布ではなく、その前にシーラーを塗布すればよいのではないか、テストしてみました。

また、上の事例のサーフ系【B】~【E】の4種のうち2社のカタログには密着に問題がありそうな場合には「目荒らし」をしなさい、ということが記載されています。
なので、目荒らしをしたら本当に密着が確保されるのか、試してみました。

使用した塗料は事例①でブービー賞だった【D】と、同じメーカーのカチオンシーラーを組み合わせました。

目荒らしは「マジックロン」を使用。

結果の一覧が下の写真です。

シーラー塗布と目荒らしの効果

サーフ系下塗塗料という同等品同士で結構な実力差がありましたので、カチオンシーラーすべてがダメとは限らないような気がしますが、【D】と同じメーカーのカチオンシーラーでは密着しませんでした。

ところが、マジックロンによる目荒らしを行った場合は全く剥がれませんでした。
ゴシゴシと力強く何度もこすったわけではなく、「濡れたものをタオルで拭く」くらいの強さで2往復程度なのですが、目荒らしはとても効果があることがわかり改めてその重要性を痛感しました。


まとめ

今回記事を書くにあたって、使用した塗料のカタログを改めて確認したところ、興味深いことに気が付きました。

サーフ系下塗塗料のうち2社のカタログに『密着に問題がありそうな場合には「目荒らし」をしなさい』という意味の記載がある、と書きましたが、それは後から付け加えられたもので、発売初期と思われるカタログには目荒らしの記載が無いのです。

(※変更前後のカタログPDFを保存していますので、当会メンバー内では情報共有しています)

実はカタログの注意事項が後から増える、というのはよくあることで、塗料の発売後に現場で発覚した不具合により追記の必要性が生じた、と考えるのが妥当でしょう。(よく注意しなければ気付かないような小さな字で書いてあります)

「試験施工してください」「目荒らししてください」と記載があり、それをやらずに不具合が生じた場合はメーカーは免責を主張できることになります。

しかし,そもそも ほとんどのサイディングは平らではなく模様の凹凸があり、それを全面目荒らしするのは現実的ではありませんから、仕様の決定にあたっては目荒らしが必要無い塗料を探し当てるため 密着テストを行ったほうが間違いないと考える次第です。

※当会メンバー達は よくこのテストを行っており、情報共有しております。
今回の記事の元になっているのは塗料の実名が入っている2本の動画で、メンバーのみ閲覧可能です。


余談ですが

「縦横 等間隔にカッターで切れ目を入れるための市販品の定規」が存在しています。
「クロスカットガイド」「カッターガイド」というもので、金属製の国産品は2万円以上します。

その機能に比較するとパッと手を出すには躊躇する価格であるため、当会メンバーの「ハマテック」代表 濱田氏が知人の「WAKUWAKU Tool」様に依頼して、メンバー限定オリジナルグッズとして「切り込み隊長」を作成しました。

ショート動画を貼っておきますのでご覧ください。
(従来品よりも安くできるので、市販するかどうか検討中です)


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記事提出者:曽根塗装店

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