「確実な施工をしたい」とお考えの塗装職人の方,鼻隠板・広小舞の塗装時に「軒樋が邪魔だなあ」と思ったことはありませんか?
近年の軒樋は ほとんどが下から金具が見えないタイプ「内吊り」になっていて容易には外せないと思っている方がほとんどだと思いますが「軒樋アンロッカー」を使えば外せることが多々あります。
試作品だけが存在する非売品でしたが,限定復刻販売しましたのでご紹介いたします。

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● 外し方
まずは,どのくらい使えるのか「百聞は一見如かず」下の動画をご覧ください。
この動画の軒樋は【デンカのダンラインエクセル DL55】ですが,【Panasonic のシビルスケア PC50】【セキスイのアーバントップ シグマ90】など,よくあるタイプの軒樋で下の写真のような金属製の吊り金具の場合はこの工具で外せます。
また,金属製の吊り具に比べるとやや作業しにくいですが,ポリカーボネイト製の吊り具の場合も外せることがあります。
下の動画はポリカの樋吊りで取り付けられた【デンカのクリアール CR105】を外している様子です。
この現場ではすべての軒樋の取り外しを行いましたが,幸い1個も破損しませんでした。
但し,メーカーや築年数によりロック部の爪が折れることがありますので,撤去&廃棄ではなく,一時撤去&復旧の場合には新品が手に入るか確認の上,折れたらそこは新品に交換する覚悟が必要です。
※当方が過去に自社ブログに書いた記事もありますのでよろしければご覧ください。
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● 軒樋を外す理由
軒樋を取り外すと塗装作業が格段にやりやすくなるだけではなく,鼻隠板のケレン掛け,継ぎ目シーリングの補修,広小舞部分合板肌分れ分裂部の除去などの作業がしっかりとできるようになります。
鼻隠板は軒樋が付いたままだとケレン清掃がほぼ出来ないです。

また,鼻隠板の継ぎ目のシーリングが切れていることもあります。

軒樋を取り外して,吊り具も外して既存シーリングを撤去してシーリングを打ち直しました。
この作業は軒樋が付いたままではできません。



それから,築年数が15年を超えると,屋根の先端から薄い板が垂れ下がってくることがあります。
これは本来無垢板で仕込むべき「広小舞」が省略され,要するにベニヤ板である「野地板」をそのまま先端まで延長して済ませてあるためです。
近年の新築工事では野地板先端部に「広小舞キャップ」と呼ばれるコの字形の板金をはめ込んで対策しているケースもありますが,今 塗り替えの時期を迎えているカラーベスト屋根の住宅の多くは無垢板の「広小舞」が省略されており遅かれ早かれこうなることは避けられません。

これをそのままにすると軒樋の中に落ちることがあるので,ベニヤ板が肌分れしてべらべらに分裂している部分は撤去したうえで,残っているベニヤ表面には水を吸わないように塗装を施しておきたいと私は思うのであります。
が,軒樋が付いたままではそもそも広小舞部分はケレン清掃すらできず,目地刷毛で色を付ける程度が限界となります。
※「広小舞」云々の説明が何のことかよくわからない方は下の動画をご参照ください。
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● 寄棟屋根の場合
切妻屋根や片流屋根ならいいけど,寄棟の屋根はどうするの?と思われる方がいらっしゃると思います。
簡単です,切るんです。

切ったところは復旧するときに「軒継手」とか「軒ジョイント」という専用パーツが必要ですので,その雨樋が廃番・入手不可になっていないかどうか,切る前に確認してください。
軒樋を切るときは角に近いところを切るわけですが,軒継手の位置と吊り金具の位置が重なっていると軒継手の取付ができません。

このような場合は軒継手が干渉しないところに吊り金具を移動して対処します。

軒樋はあまり長いままだと,脱着のときに折れてしまうおそれがあるので,その場合も適当なところで切断してあとで軒継手で復旧したほうが良いです。

ちなみに,「軒樋アンロッカー」初心者の方は下の写真のように,吊り金具にヒモを通して輪っかにして軒樋に絡め落下防止処置の上でアンロック作業を行いましょう。

私は1度だけ「固えな~,えいっ」で勢いあまって2階から軒樋落としてバキバキに割ったことがあるのです (;O;)
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● 外した軒樋の置き場所
取り外した後どうするかについても書いておきます。
足場に結わいておくパターン


屋根の上に乗せて雪止め金物に結わいておくパターン

外したままにはできない・したくない場合は,以下の2パターンあります。
金具からひもで吊るすパターン

先端に引っ掛けたまま足場のほうに引っ張っておくパターン

上の2例は帰り際に復旧して,次の日にまた同様の状態にして作業しました。
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● 建築板金工事業者の方へ
もしかすると検索などでここに辿り着く建築板金職人の方がいらっしゃるかもしれませんので,書いておきます。
外した軒樋を廃棄するのではなく再利用する前提の場合は,吊り具が傷まないように丁寧に作業する必要がありますけれども,吊り替え,つまり,全交換のための既存撤去でしたら吊り金具ごと取り換えるのが普通なので,吊り具の傷みなど気にする必要は無いですから慣れるとかなり早く外せるようになります。
実際,数年前に当方の知り合いの板金職人さん2名に試作品を進呈した結果,どちらの方にも愛用されており今では冒頭のショート動画と同じく手元を見なくても外せるようになっています。
(冒頭の当方作業中のショート動画は編集での早回しはしていません,そのままのスピードです)
また,吊り替えだけでなく,取り付けのときにも「軒樋アンロッカー」があったほうが便利だと思います。
というのも,塗り替え工事で築十数年とかのお家に足場を立てると「あれ,なんかあそこ出っ張てるな?」

と思ったら,1ヶ所先端が入っていませんでした。

というトホホな状態をたまに見かけるからです。
「直すのタイヘンだからもういいや」って帰っちゃったんでしょうね,たぶん。
しかし「軒樋アンロッカー」があれば,軒樋を細切れに切断したり,角のメッシュシートを外して軒樋をスライドさせたりする手間は不必要となり手直しが楽になります。
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● 今回販売に至るまでの経緯
兵庫県にハンマーやバールなどを作っている「土牛産業」という工具メーカーがありまして,先代の社長さんとご縁が出来て以後,当方のリクエストで2点製品化されているものがあります。
「コーキング取り」(2008年)と「カメ棒ロング」(2011年)で,前者は今なおホームセンターで販売されており,後者もモデルチェンジして販売されています。
「軒樋アンロッカー」は当方が2008年に市販のヘラを改造して自作,土牛産業で製品化に向けて何度も試作品が作られ販売直前まで行きましたが,結局「販売数が見込めない」という理由でボツになってしまいました。(2018年)
当時の担当の方が言うには,複数の塗装店に聞いて回ったところ「塗り替えのときに軒樋を外す業者は1軒もいなかった」とのことで,これがボツの決め手になったようです。
しかし,1回やってみるとわかりますが,鼻隠板(と広小舞部分)をケレン清掃して→継ぎ目のシールの補修をして→下塗1回+上塗2回=合計3回ほんとうに隅々まできちんと塗るという前提だと,軒樋を外したほうが断然早いんです仕事が。
でも,ケレンも継ぎ目も無視してテキトーにさくさくと1~2回塗るだけなら軒樋を外す必然性は皆無です。
メンバーである私が言うのもなんなんですが当会は比較的真面目な塗装職人の集団なので,曽根塗装店の倉庫で眠っていた試作品だけでは希望者全員に配布するには足りず,岐阜県のメンバー井口塗料店の井口さんが懇意にされている鉄工業者さんに依頼して復刻してくださいました。
なので,今現在 当会メンバーは全員持っています。
その後,西東京市のメンバー将美建装の阿部さんが改修工事現場で出会った板金職人さんに披露したところ たいへん驚かれて「それ売ってほしい」というお話があったそうなので,このたび30本追加で作っていただき試験的に一般販売してみることにした次第です。
販売方法は検討の結果,本日11月30日(日)から1週間ヤフオクに出品しています。
私の想像では,塗装職人よりも建築板金職人にウケる工具だと思っていますが,どのくらい売れるのかぜんぜん見当がつきません。
結果は後日ここに追記いたします。
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記事提出者:曽根塗装店
